行合坂

　　　　誰もそのタイルを登る手のひらを見たことのなき虫も恐ろし

　　　　捨て猫の母になれない理由もありそを語るとき何の明るさ

　　　　日本の家や町並み映えるたびわが帰る家のなき事も見る

　　　　脚折れのワイングラスの赤シールを数枚つけたし今このわれに

　　　　歌と言えば演歌と返る街角にそれがわれにて聞かさむ小節

　　　　逝きしかど夫の妻だと夫の名の下に名を書く名刺渡さる

　　　　金髪ののびし付け根の色黒し本音をいつも言う女ならん

　　　　日本語のファックスなり投げられて黙せしままにソファに一日

　　　　船にては「行合坂」が行き違う行き会うために空より来たり

　　　　木ぶどうもマモンも幹に直接に疣のように乳房のように実

　　　　今朝ひとつ乳房を切られ泣くマモンの幹にしたたる乳の数すじ

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